成形方法と製造コストのイノベーション
前回から引き続き、子供のアレルギー対策をプロダクト目線から考察していきます。
前回は子供のアレルギーは成長と共に改善されていくことが多いため、基本は塗り薬による皮膚のメンテナンスが中心という話を書かせていただきました。
ゆえ、皮膚のメンテナンスに欠かせない塗り薬の容器について、今回はものづくりの視点から話を展開していきます。
射出成型については前回触れたとおり、金型内にドロドロに溶けたプラスチックを高圧で射出し、冷えたところを取り出すという方法で量産されます。
大量生産する際に価格面でのメリットがあります。
射出成形の歴史は古く、1921年にドイツで初めて射出成形機が発明されてから約100年近く前に開発された技術となりますが、今日のものづくりにおいても主要なプラスチック製品の生産方法となっております。
この約100年の間に射出成形機も進化してはおりますが、デザイン上この成型方法が苦手するものがあります。
それは、製品の肉厚の変化です。
製品自体のデザインに厚い箇所と薄い箇所が複雑に設計されていると、射出圧力が高めに必要にって「バリ」や「ヒケ」が発生して不良成型品となってしましむ。
※「バリ」や「ヒケ」については、こちらの会社様のサイトがわかりやすいです。
成形品の不具合 | 金型 | プラスチックの話 | 工業用品部 | 株式会社リッチェル
さて、射出成形の得意不得意を理解したうえで、改めて塗り薬の容器を見てみると今のデザインが理に適っていることが理解できると思います。
肉厚は均一ですし、ドロドロのプラスチックが流れにくそうな箇所は特にありません。=不良を起こしにくい。ということになります。
ここで、薬剤師さんの目線でもこの容器について考えてみましょう。
皮膚科などに行って処方箋をもらうと、薬剤師さんが奥の方で何かやってますね。
薬剤メーカーから買っている薬を販売するだけであれば、チューブに入った状態で売ればよいので薬剤師さんは特に何もしません。
いわゆる調剤を行う場合、下記のような調剤工程を経て、患者へ提供しています。
こうした軟膏を混合した薬を混合軟膏と呼びますが、この混合軟膏を作る工程として、動画で消火したような手で作る薬局が少なくないようです。
なるほど、この作業を行うなら容器の口は広くないと、混合した後ヘラでは入れにくくて仕方ありません。
だんだん、デザイン要件がまとまってきましたね。
・射出成形による大量生産でのコスト競争力は維持
・薬を塗った後は手がべた付いているので、閉めるときは容器を触る面積は最小に
・薬剤師さんはヘラで容器に入れるため、容器の口は広く
以上を網羅するプロダクトデザインであれば、競争力を持った製品になる可能性があります。
そこで私が考えたものは、マヨネーズのフタの構造を活かしたワイド版マヨネーズです。
薬を出し過ぎず、かつ根詰まりしない程度の穴径を確保します。
この容器の青い部分がマヨネーズの蓋に代わるイメージです。
容器下部をギュッと握ることで、圧力で塗り薬を出すイメージです。
ここで大切になる点としては、容器下部は弾力のある素材を用いて手で押して変形するくらいの柔軟さが必要になります。
しかし、この要件になると、通常は射出成形ではなくブロー成形になります。
ブロー成形も射出成形と同様金型を使用します。
流し込むプレスチックが液状からシート状になった、とイメージ頂ければわかりやすいと思います。
こちらの動画がわかりやすいかと思います。
ブロー成形と射出成形の二つの設備を使って製品を作る場合コストが上がる可能性が高いです。
射出成形で1次フォームを作り、そのフォームを再加熱してブロー成形で求める形状を作成する射出ブロー成形という工法もありますが、こちらに関してもフタの成形と異なる設備のため価格競争力が低下する恐れがあります。
今回の考察では具体的なコスト算出まではしませんが、蓋と容器を分けて作成しても既存の容器に負けない価格競争力が必要になることはここに記載しておきます。
また、手に馴染む形状で、蓋側を下に向けて軟膏材が下に集まるようにデザインする必要があります。
形状でいうとこんな感じです。
下側がマヨネーズのようなヒンジ付きの蓋になります。
さて、そろそろ今回も終わりですが、ものづくりから考える子供のアレルギー対策で今回は軟膏材容器にフォーカスしました。
デザイン上の工夫の余地はまだまだありますが、生産コストが非常に重要になる観点でした。